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Kuningattaren viitta    原書名:  Kuningattaren viitta
 (王妃のケープ)
 作者名:  Maria Vuorio, 1954~
 マリア・ヴオリオ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2011
 ページ数:  71
 ISBN:  978-951-31-6252-8
 分類:  児童書
 備考:  

【要約】

ある時ふいに自分は何者かと母に尋ねたミミズ。鏡を見ながらいつまで経ってもイボが現れない自分に不安と焦りを感じたイボガエル。ルーティンワークから思いきって抜け出したノミ。目をかけられずに枯れてゆく百合の涙に、はたして気づく人はいるのだろうか。マッチ箱のマッチの燃えるように儚い人生。絶滅危惧種の昆虫に食われたデンマーク王妃の七百年前の羽毛のケープ。どの出来事も誰にとってもありうることであり、人生の普遍の真実だということを、鋭く深く描き出した珠玉の寓話集。

【抜粋訳:p.68】

 およそ五十本くらいだろうか。皆、自分の番を待っている。しばらくは狭い箱の中でじっと待っていなくてはならない。自分の番が来るまでしばらくかかることもあれば、あっという間に呼ばれることもある。一人が箱から出て行くとき、他は道をあけて並び直す。手前に並ぶこともあれば後退することもある。つぎの番は誰にもわからない。つぎに呼ばれるのは、塩素酸カリウムをたっぷりとかぶって将来を夢見ている、この一本かもしれない。
 マッチのもっとも大切な仕事は発火することだ。できれば燃え上がるまで待っていたい。しかし、マッチの炎で体は暖まるだろうか。大事なメッセージを読み取れるだろうか。廊下の先まで見えるだろうか。そもそもマッチは発火できるだろうか。炎を移して生き延びることはできるだろうか。
 こんな難しい問題はできるだけ考えずに、立派に燃えることだけを思って箱の中で待っていたい。
 けれども、子どもに思いきり吹き消されたマッチは縮みあがり、子どもたちのはしゃぐ声に見送られながら消えてゆく。そうなるとマッチは、はたして燃えたのか、自分の人生を生きたのか、これっぽちもわからないのだ。

文/訳 末延弘子 マリア・ヴオリオ著『王妃のケープ』(2011)より


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