【抜粋訳:p.68】
およそ五十本くらいだろうか。皆、自分の番を待っている。しばらくは狭い箱の中でじっと待っていなくてはならない。自分の番が来るまでしばらくかかることもあれば、あっという間に呼ばれることもある。一人が箱から出て行くとき、他は道をあけて並び直す。手前に並ぶこともあれば後退することもある。つぎの番は誰にもわからない。つぎに呼ばれるのは、塩素酸カリウムをたっぷりとかぶって将来を夢見ている、この一本かもしれない。
マッチのもっとも大切な仕事は発火することだ。できれば燃え上がるまで待っていたい。しかし、マッチの炎で体は暖まるだろうか。大事なメッセージを読み取れるだろうか。廊下の先まで見えるだろうか。そもそもマッチは発火できるだろうか。炎を移して生き延びることはできるだろうか。
こんな難しい問題はできるだけ考えずに、立派に燃えることだけを思って箱の中で待っていたい。
けれども、子どもに思いきり吹き消されたマッチは縮みあがり、子どもたちのはしゃぐ声に見送られながら消えてゆく。そうなるとマッチは、はたして燃えたのか、自分の人生を生きたのか、これっぽちもわからないのだ。
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