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Jänis ja Vanki koulun penkillä    原書名:  Jänis ja Vanki koulun penkillä
 (うさぎヤニスとあらいぐまヴァンキのおはなし
 ヤニスとヴァンキ、学校へいく)
 作者名:  Jyrki Kiiskinen, 1963~
 ユルキ・キースキネン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2008
 ページ数:  142
 ISBN:  9789513141387
 分類:  児童書
 備考:  Jänis ja Vanki saavat kännykän

【要約】

あらいぐまのヴァンキは、おっとりしてひっこみ思案。でも、ものごとをよく考えます。ただ、目の周りの黒いマスク柄やしっぽの黒いしましま模様のせいで、囚人にまちがわれて牢屋で暮らしたこともありました。ヴァンキが出会ったうさぎのヤニスは、そこぬけに明るく、悩みも心配もありません。

ある日、ヴァンキは、はてしない宇宙のことを考えました。宇宙はどこで終わっているんだろう。なにからすべては始まったんだろう。なぜ、ぼくたちは食べたり、寝たり、生きていたりするんだろう。ヤニスは、まよいなく答えました。一、お腹が空いているから。二、眠たいから。三、楽しいから。ヤニスにとって、生きることはニンジンと馬跳びと友情なのです。でも、ヴァンキは、美しい星空やニンジンをぽりぽり食べるヤニスがどうして存在するのか知りたくて、学校に行くことにしました。

ヴァンキを森へつれもどすために、ヤニスは学校に忍びこみます。ところが、ゴリラのキング用務員に見つかって、ヤニスもクラスに入ることになりました。優等生のヴァンキとちがって、ヤニスは落ちついて授業を聞くことができません。ときに、つまらない先生にかわって教壇に立ったり、トイレで水合戦をやって水道管を破裂させたり、手をあげずに発言したりして、先生をこまらせます。しかし、あまのじゃくなネズミからヴァンキの靴を取りかえしたり、算数の時間にユニークな答えを出したりして、あっと言わせます。

しかし、ヤニスの自由な行動がとうとう問題をおこしました。内気なぶたのテノールヨハンネスが、ヤニスをまねて木の枝から校舎の屋上に飛び移ろうとして失敗。テノールヨハンネスは無事に救出されましたが、消防隊まで出動する騒ぎとなり、校長先生に呼び出されました。ヤニスは心理カウンセリングを受けて、危険な遊びはやめることになりました。さらに、視力検査でメガネをかけることになったヤニスは、ものがはっきり見えて、賢く見えるじぶんにまんざらでもない様子です。机のうえに投げだしていた足はおろし、ちらかっていた鉛筆や消しゴムはきちんと並べて、発言するときも手をあげるようになりました。クイズ大会では学校でいちばんになり、奨学金までおりました。

夏やすみを前にした終了式の日、あふれる光にメガネをはずしたヤニスは、奨学金も通信簿も学校に通っていたことすらも忘れて、森へかけだします。すっかりウサギらしさを取りもどしたヤニスに、ヴァンキは大よろこびし、夏やすみをおもいっきり楽しみました。

 同書は、やさしい文庫シリーズ「黄色いくちばし文庫」の一冊で、五歳から八歳の子どもたちが対象です。「うさぎヤニスとあらいぐまヴァンキのおはなし」シリーズは、『うさぎヤニスとあらいぐまヴァンキ』(2000)、『ヤニスとヴァンキ、旅にでる』(2005)、『ヤニスとヴァンキ、親せきにあう』(2006)、『森にケータイがやって来た』(2009)が刊行され、ラジオドラマにもなりました。

【抜粋訳:pp. 42-48】

 学校でのさいしょの水曜日がそろそろ終わろうとしています。ヤニスはだらしなく座って、先生のたいくつな声を聞きながらうとうとしていました。先生はちらちら教室に目をくばりながら、問題をだしました。
「カッレとペッレはお菓子を買いました。お菓子の袋には、キャンデーが十粒入っています。二人でわけると、それぞれいくつずつもらえますか?」
 教室がざわついてそっぽをむく生徒もいましたが、いちばん前の席からは、つぎつぎに手があがりました。みんながきちんと手をあげて答えるようになり、先生はうれしくなりました。
 ヴァンキを指そうとすると、ヤニスが後ろから勝手にしゃべりだしました。
「つまんないもんだい」
「ヤニス、いったいなんど言ったらわかるんだ。答えるときは手をあげなさい」先生は指し棒をぶんぶんゆらしました。
「つまんないったらつまんない」
 ふてくされるヤニスに、先生はため息をつきました。
「なにがつまらないんだ?」
「キャンデーはべとべとするからキライだよ」
「それじゃあ、ニンジンだと思いなさい」
「お菓子の袋にニンジンなんか入れないよ」ヤニスはへりくつをこねました。
「ヴァンキに答えてもらおうか」先生は話をもとにもどそうとヴァンキを指しました。
 ヴァンキは手をおろして、大きな声で答えました。
「どちらも五つずつもらいました」
「あんなにべとべとするのにさ。それじゃあ、キャンデーが十一個あったらどうするわけ?」
 ヤニスはヴァンキの正解が気に入らず、いじわるそうにこう聞き返しました。
 ヤニスは机のうえに足をなげだして、イスにふんぞり返りました。先生は、教室をぐるりと見わたしましたが、みんなは目をあわせないように顔をそむけました。
「ヤニスの質問に答えられる人はいないのかい?」
 教室はしんと静まり返り、だれも手をあげようとしません。
「ヤニスの答えを聞こうか」先生はヤニスをためすようにじっと見ました。
「カッレのほうが体も大きいし強いから、カッレは六つで、ペッレは五つ」ヤニスはけらけら笑いました。
「それじゃあ話にならんな」
 気まずいふんいきに先生はどうしたものか困っていると、ヴァンキが手をあげました。
「カッレとペッレがあまった一つを半分にすれば、どっちも五つと半分ずつもらえます」
「そうだね」先生はにっこりしました。
「まった!方法なら、まだもう一つあるぜ」ヤニスが口をはさみました。
「あまった一つは、道で出あった子にあげる。そうすれば、かくれんぼができる。二人より三人のほうがおもしろいもん」

文/訳 末延弘子 ユルキ・キースキネン著『ヤニスとヴァンキ、学校へいく』(2008)より


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