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Sanomattomia lehtiä    原書名:  Sanomattomia lehtiä
 (メッセージのないページ)
 作者名:  Aki Salmela, 1976~
 アキ・サルメラ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2004
 ページ数:  86
 ISBN:  951312780X
 分類:  詩集
 備考:  2004年度カレヴィ・ヤンッティ賞受賞作
 Tyhjyyden ympärillä

【要約】

カレヴィ・ヤンッティ賞を受賞したサルメラの処女詩集は、芸術や文学の伝統や歴史のなかであらわされた言葉を、おもむくままに継ぎはぎ、あてがい、組み合わせながら、言葉の自由な遊びをためした作品です。シュールレアリスム画家マックス・エルンスト、「偶然性の音楽」を作り出したジョン・ケージ、非日常を独自の世界観で描いた詩人・画家アンリ・ミショー、また、前衛的な作品を数多く著したフィンランド詩人ヴァイノ・キルスティナの世界を思わせるような雰囲気があります。

ダダイズムとシュールレアリスムの枠にとらわれない可能性や、そこに秘められた愉しみを感じさせるのは、「恋人同士」の彼と彼女の会話でしょう。無意味な「ダダ」という言葉のやりとりに、有意義が際立ちます。

【抜粋訳: p.7】

恋人同士

流行の絵ばかりで構成された女が部屋を横ぎって、ぼくのテーブルにぴたりと着いた。

ダダ?

そう訊く女にうなずいたぼくは、深くお辞儀をしたようだった。

「ダダ」

彼女は口元に笑みを浮かべ、逆方向に目を回し、眉毛はぐわんと波うった。

だんだん気分がわるくなり、ぼくは煙草に火をつけて、ぼくらの間に具体性を取り戻した。

「ダーダ」

よく考えたうえの女の言葉だった。女はピンクの煙草を黒いパイプにねじりこみ、身を乗りだして火をせがんできた。

しんと静まり返ったなか、ぼくらは煙草をのんで、女はカラフルなマニキュアを塗っていた。 「ダダ」と、ぼくが訊く。

「ダダ」と、女がひっそり答える。しばらく内緒にしていた心の秘密を打ち明けるように、ひっそりと。

ぼくはこくりとうなずいた。

女は人形のように立ちあがり、ぼくの隣に転がるように腰かける。バニラの吐息が鼓膜に感じるほど、ぼくの耳に唇をおしあてた。

「ダダ」と、女は上昇する風のようにささやいた。

「ダダ」と、壊れそうな声でぼくは言う。

彼女の手がぼくを絡め、ぼくらは濡れた時計のようにひとつに溶けあった。

そうしてぼくらは部屋を後にした。脆い感情に占められた人間として、我に返る理性しかない人間として。

文/訳 末延弘子 アキ・サルメラ著『メッセージのないページ』(2004)より


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