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Kultamarja ja metsän salaisuudet    原書名:  Kultamarja ja metsän salaisuudet
 (マルヤと森のひみつ)
 作者名:  Leena Laulajainen, 1939~
 レーナ・ラウラヤイネン
 出版社 / 年:  Tammi / 1998
 ページ数:  30
 ISBN:  951311242X
 分類:  児童書
 備考:  フィンランディア・ジュニア賞作品

【要約】

あるところに、青い雪の降る村がありました。太陽は彼方から昇って沈んでゆくのに、その村まで光が届きません。雪がとけない村の子どもたちは、ふしぎなことに年を取りませんでした。

そもそも青い雪が降りはじめたのは、村の少年レイダーの父親が行方不明になってからでした。レイダーの父親は、光る石が採れる井戸を守っていた森の番人でした。森の番人の失踪とともに青い馬が現れて、村の入り口で番をするようになりました。

ところが、青い馬がうたた寝しているときだけ日が射して、子どもたちは雪の城や雪だるまをつくって遊びました。光をうけた雪面は青から金色に輝き、氷の張った泉はとけて小動物たちの喉を潤しました。

鳥やウサギが巣を作る森へ行ってみたい。白い雪が春とともにとけて鳥が歌う村に行きたい。太陽を浴びて大きくなりたい。そんなふうに子どもたちは願うようになります。村の少女で、金色の髪のマルヤは、森の番人がまだ生きているかもしれないと思って、レイダーと捜しに森へ出かけます。

村の子どもたちが歌を歌うと、入り口で見張っていた青い馬はうとうとしはじめました。その隙に、マルヤとレイダーは村から逃げだします。どこからともなく、静かなやさしいフルートの音色が流れてきました。二人はフルートに導かれながら、月明かりに照らされた道を進んで、井戸のある森の奥へ入っていきました。

そこには、黄金色の服をまとってフルートを持った少年が立っていました。フルート少年は、光る石にまつわる話を語りはじめました。その昔、ここで光る石が採れることを知った人間が、森の番人の注意を聞かずに山をすっかり削ってしまったあげく、森の番人を閉じこめてしまったのです。そのときに、山の洞窟にいた青い馬が中から逃げだしたのでした。森の番人は、地下水を飲んだり、鳥が運んでくれるベリーや果物を食べたりして、生き延びていました。

森の番人が村にもどってくると、太陽が顔を出し、雪がとけ、青い馬は消え去りました。鳥が歌い、花が咲き、泉が湧きました。泉の水を飲んだ子どもたちは、みるみるうちに大きく成長しました。それ以来、雪は冬に降って春にとけ、子どもたちは大きくなりました。そして、村は「ヒナギクの村」という昔の名前を取りもどしました。

レーナ・ラウラヤイネンは、国語教師から作家へ転身し、伝説や神話を題材にした物語を多く書いています。同書は、フィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。

【抜粋訳:pp. 5-11】

青い雪の村に、金色の髪のマルヤという少女がいました。村には、ほかにも子どもがたくさん住んでいます。ふしぎなことに、村の子どもたちは年をとりません。どの子もせいぜい十歳くらいで、もっと小さい子がうんといました。
 村の時間が止まってしまったのでしょうか?いいえ、そんなことはありません。太陽は宇宙の海から昇って、空が輝くほど燦々と光の粒をふりまいて、ゆっくり流れるように空をわたります。夜がくれば、太陽はふたたび宇宙の海の波にしずんでいきました。
 時は流れてゆくのに、日の光は青にしずんだ村までとどかず、子どもたちは大きくなりませんでした。青い雪はいつになってもとけることはなく、あたりが見えなくなるほど雪が空を舞い、地面に降り積もって、近所に遊びに行くことすらできないときもありました。こんなに寒くて暗いなかで、大きくなる子なんているでしょうか。
 青い馬が村をかけ回っていました。こおった草と青い雪を食べて、冷たく白い息をはきながら、こおりのようなまなざしで家の中を見ていました。いったいどこから現れたのか、村人にはわかりませんでした。青い馬をどうにかして村から追いだそうとしましたが、うまくいきませんでした。それからずいぶん時が経ちました。青い馬は村の入り口に立ち、だれも出たり入ったりできないように見張っていました。青い馬は、レイダーの父親で森の番人が姿を消した日に村に現れました。
 青い馬がたまに居眠りしたときは、雲間から光が射して、雪をとかしました。子どもたちは、笑顔をうかべながら、青い雪の城や青い鼻の雪だるまをつくったり、青い光を放つ雪明かりをこしらえたりしました。そんな日は、凍えてこわばっている木の枝に、華やかな鳥がひらりと飛んできました。
 太陽が雪面を照らすと、雪はもはや青ではなく、金色に輝きました。村のまんなかの木陰にある、こおっていた泉が縁からじわじわとけだすと、小さな白いウサギがささっと駆けよってのどをうるおしていました。
「鳥やウサギはどこに巣をつくるの?」村でいちばん小さい子どもが聞きました。
「森だよ」村の男の子のなかでいちばん大きなレイダーが答えました。
「見てみたい!」子どもが村の入り口にむかって走りだしました。入り口の向こうには森が広がっています。太陽が木々のこずえを金色にそめ、森がやさしく呼んでいるようでした。
 そのとき、青い馬がいきおいよく駆けつけて、おどすように鼻をならしました。鳥は飛びさり、ウサギはあわてて柵の穴から出て森へ逃げました。青い馬は凍てつく白い息をあたりにふりまきました。太陽は姿をかくし、子どもたちはその場から立ちさりました。白いウサギや金色の鳥の巣がどこにあるのか聞こうとする子どもはいなくなりました。青い雪が降り、青い馬はわがもの顔でいななきました。

(文/訳 末延弘子 レーナ・ラウラヤイネン著『マルヤと森のひみつ』(1998)より)


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