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Hirmuista koulupäivää, Hirviö    原書名:  Hirmuista koulupäivää, Hirviö
 (ちびのモンスター、学校にいく)
 作者名:  Suna Vuori, 1967~
 スナ・ヴオリ
 出版社 / 年:  WSOY / 2006
 ページ数:  55
 ISBN:  9789510321171
 分類:  絵本
 備考:  Hirveää, parkaisi Hirviö

【要約】

ちびのモンスターはなかなか寝つけません。お父さんモンスターの作ってくれたコウモリの夜食は胃にもたれ、お母さんモンスターが読み聞かせてくれたお話は頭にはいらず、なんだかそわそわしています。そうです。ちびのモンスターは、明日からモンスター学校に上がるのです。登校初日の朝、「歯や爪はぴかぴかに研いだの?学校までひとりで行ける?」と聞くお母さんモンスターは心配そう。お父さんモンスターは、「まともなモンスターになるために学校に行くんだよ」と言いながら、森の外れまで見送りました。

学校では、モンスターになるためにいろいろなことを勉強します。睨むこと。唸ること。叫ぶこと。良いモンスターというのは不良であることなのだと、先生モンスターが言いました。おっとりしているちびのモンスターは、「でも、なんのためにぼくたちは学校に来ているんですか?」と、先生に聞きました。先生のおならや息は気絶するほどクサいし、怖さも迫力満点ではあるけれど、話をよく聞いてくれる先生でした。

先生は、新入生におなじ質問を投げかけました。黒い毛むくじゃらのモンスターは、もっと強くなるため。水かきのついたモンスターは、スポーツ万能な先生に憧れて。緑の毛をしたモンスターは、森で迷わないように方向感覚をつけるため。大きな角をしたふてぶてしいモンスターは、答えられませんでした。

そこに一人、明らかに浮いているモンスターがいました。海の向こうからやって来た転校生で、ひょろっとして青白く、垂れ耳で角も尻尾も毛もありません。ほかのモンスターは爬虫類を食べますが、その子はベジタリアンです。モンスターはたいてい一人っ子ですが、その子には16人も兄弟がいました。しかも、ほかのモンスターとはちがって、ちゃんと自分の名前がありました。ホイ・ポッロイというラテン語名をもつ転校生は、お友だちを作りに学校にやって来たと言いました。

ホイ・ポッロイが、肉を食べず、毛もなくて、口から火をはき、行儀が良いことに、モンスターたちはからかって笑いました。ちびのモンスターだけが、ほかとちがうところをほめてかばってあげると、ふたりは仲よしになりました。体育の時間、ホイ・ポッロイとちびのモンスターはおなじチームになりました。ホイ・ポッロイはガイコツラグビーで大活躍を見せて、ほかのモンスターたちをぎゃふんと言わせました。  お昼休みに、ホイ・ポッロイは戦争から逃れるためにここに来たことを打ち明けます。人間の住む町や村が増えてきて、すみかを追いやられたヤギモンスターとの話し合いが決裂し、戦争に発展したのでした。安らぎと愛するものを奪ってしまう戦争のことを、ちびのモンスターは深く考えました。家に帰ったちびのモンスターは、お父さんモンスターに、戦争のことについて聞きました。お父さんモンスターは「世の中は良いことだけじゃないし、どんなモンスターも完璧じゃない」と答えます。そして、ちびのモンスターはこう言いました。「だから学ぶんだね」と。

【抜粋訳:pp. 21-22】

 モンスター学校のみんなは、転校生をものめずらしそうに見ました。しかも、火をはくことが、恥ずかしいことでもあるかのように。
「どうしたの。これって、すごいよ。ぜったいすごいことだよ!だって、ここのモンスターは火なんてはけないもん」ちびのモンスターが言いました。
「するんじゃなかった。お父さんにやるなって言われたばっかりなのに」ホイ・ポッロイが言いました。
「なんで?ぼくが火をはけたら、そればっかりやってるよ。あっちやらこっちやらに火をはいてまわるな。ちいさい火事をおこして、消火ごっこなんかしてあそぶんだ。うるさい昆虫を焼いたり、洞窟の天井のコウモリをあぶったりする。あっ、ごめん。ベジタリアンだったよね。ええと、あぶったキノコもぜったいおいしいよ」
「ちびのモンスターは火の使い方にあまりなれてなさそうね。お父さんに、わたしの特技を見せびらかさないように言われた理由のひとつがそれよ」
「まだなにか見せるものがあるの?」ちびのモンスターは、ホイ・ポッロイの特技が気になって聞きました。
 ホイ・ポッロイは、はぐらかすようになにか言いましたが、先生の号令にかきけされました。
「それでは、モンスターの諸君、着席!ホイ・ポッロイ、きみの名前のことをもうすこし話してくれるかな?もう、気づいているかと思うが、ここでは海のむこうとちがって名前がない。きみに名前があるのには、なにか理由があるんだろう?」
「はい、たぶん。わたしがいたところでは、モンスターはとにかくいっぱいいました。うちは大家族で、みんないっしょに住んでいました。ちがう種族も身を寄せあうように暮らしていたので、名前がないと生活しにくいんです」
「兄弟がいるんだね?」
「16人います」
 先生は感心したようにピューッと口笛をならしました。
 その場はしんと静まりました。ふたごのモンスターをのぞけば、みんな一人っ子です。それでも、うっとうしいと思うときがあるくらいなのに、そんなにたくさんの兄弟とうまくやっていけるのでしょうか?つかみあいのケンカをしたくなったりしないのでしょうか?ひとつのものを16とか17に分けることは、どんな感じなのでしょう?
 ちびのモンスターは、先生はいろいろと聞きすぎだと思いながら、ちびのモンスターにも聞きたいことがどんどんでてきました。ホイ・ポッロイは、みんなから注目されることがいやそうでしたが、先生はかまわず質問しました。
「きみの名前にはなにか意味があるのかい?」
「はい。古代ギリシャ語で、大衆とか多数という意味です。お父さんがわたしにつけてくれました。大きな声でこの名前を叫ぶのがおもしろいからだって。「ホイ、ホイ、ホイ、ポッロイ!」と言うと、声援を送っているみたいに聞えるそうです」
(・・・)
「それじゃあ、ホイ・ポッロイは学校でなにをしたい?」先生はいっこうに質問をやめません。
 ホイ・ポッロイは、ちらっとちびのモンスターを見て、さっと言いました。
「ここではどんなふうに暮らしているのか知りたいです。わたしとおなじ年ごろのモンスターは、どんなものが好きで嫌いなのか。せめてお友だちを一人でも作るには、わたしはどうすればいいのか」
 ちびのモンスターはホイ・ポッロイを見つめながら、友だちになれるか考えました。

(文/訳 末延弘子 スナ・ヴオリ著『ちびのモンスター、学校へいく』(2006)より)


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