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Prinsessan siivet    原書名:  Prinsessan siivet
 (翼がはえた王女)
 作者名:  Kaarina Helakisa, 1946~1998
 カーリナ・ヘラキサ
 出版社 / 年:  Otava / 1999
 ページ数:  30
 ISBN:  9789511161158
 分類:  絵本
 備考:  

【要約】

王女が病気になりました。それまで王国では、畑は豊かに実り、森に緑が生い茂り、幸せな光に包まれていました。王女が病に伏せてから、雨はひたすら降り続け、雲が垂れこめました。

王さまは、国中の医者という医者を集めて、熱にうなされる王女をなんとか治そうとしますが、王女はいっこうに目を覚ましませんでした。ある日のこと、よその国から男性が城を訪ねてきました。髭をたくわえ、ぼさぼさ頭にソフト帽をかぶり、小脇に鞄を抱えていました。自分が置いていく贈り物に満足するなら、王女の病気を治すと言うのです。王さまとお妃は、王女に元気になってもらいたくて承知しました。

男性は、薬やピンセットや薬草はいっさい使いませんでした。かわりに、象牙の箱から取りだしたのは赤紫色の羽根でした。その羽根で、王女の額に三回、心臓に三回、背中に三回触れると、男性は姿を消しました。

その日の晩、王女の熱は下がり、元気に目を覚ましました。城では盛大なパーティが開かれ、王女も舞踏を披露しました。王女の回復とともに、凍土はとけ、川は流れ、国に春がやって来ました。

ところが、夜になると、王女はうなされるようになります。一週間後には、王女の背中に翼が生えていました。カーテンがあおられて揺れるくらい、それは大きな翼でした。お妃は王女の変化に泣きふせ、王さまは自分の目を疑いました。

王女に翼がはえたことを恥ずかしく思った王さまとお妃は隠しておくことにしました。王女にマントを着せて翼を隠したり、侍女にココアやリボンや真珠や絵本を王女にあたえて飛んで行かないようしたり、金と銀で鋳造した世界一うつくしい鳥かごに入れたり、王さまとお妃が地上の人間になりなさいと説得したりしました。それでも、王女は飛ぶことを止めませんでした。王女にとって、風は青い絹となり、雲は羽毛の枕となり、飛ぶことは幸せだったのです。

ある日、王女は戻ってきませんでした。王さまはついに、国をあげて王女の捜索に取りかかりました。国中に翼のはえた王女の存在が知れわたることになりましたが、王さまはもう隠しておくのをやめました。お妃も王女が恋しくてたまりませんでした。森で拾った白い羽根を赤紫色に染めて、王女とおなじ翼を縫い上げました。そして、自分の背中につけて、王女の帰りを待ちました。

王さまとお妃が、王女の翼も翼のはえた王女も受け入れたとき、王女が戻ってきました。

カーリナ・ヘラキサは、フィンランドを代表する児童作家です。ユーモアとファンタジーあふれる童話を数多く残したほか、リンドグレンやヤンソンのフィンランド語訳も手がけました。同書は、フィンランディア・ジュニア賞の候補に挙がりました。

【抜粋訳】

王女の寝室で、医者は黒いバッグを開けて、象牙の箱を取りだしました。医者が取りだしたのは、ペンチでも、薬でも、ピンセットでも、薬草でもありませんでした。さらに小さな箱と、その箱のなかに入っている赤紫色の羽根でした。
 医者はなにやらわけのわからない言葉をぶつぶつとなえて、ふうっと羽根に息を吹きかけました。その羽根で、王女の額を三回、心臓のあたりを三回、背中を三回そっとなでました。
 すると、そそくさと羽根を箱にしまって、箱もバッグにしまうと、王さまへの挨拶もそこそこに、ちょこんと頭を下げてその場から立ち去りました。それ以来、この医者は現れませんでした。
 王女の熱はその日の晩に下がりました。目を覚まして、あくびをし、かろやかに笑って、お腹が空いたと言いました。王さまは城でパーティを開くように命じました。ご馳走を給仕にあわてて用意させ、城の広間は、小さなろうそくやボタンやオダマキで飾り立てました。ドラムやクラリネット奏者も呼びました。いつの間にか、どんよりと垂れこめていた雲は晴れ、丸天井の窓からは星空が彼方に広がっていました。
 王女は、レースのクッションと絹の膝掛けをかけ、ベッドほどもある黄金の車に乗って現れました。王女は、黄金の車からさっそうと飛び降りました。音楽が鳴ると、パイやスープに手をだすより、踊りはじめたのです!王女はまるで一陣の風のようでした。カモメの飛翔のように、夜明けの蝶のように、王女は踊りました。
「ほんとうにありがたい。すばらしい医者だこと!」王さまとお妃はそろってうなずきあいました。
 一晩で王国に春がやって来ました。凍土はとけ、川は流れだしました。
(春の風に民の顔はリンゴのように赤くほころんだ。ああ、ありがたい!きっと実り豊かな年になる。喜びがもどってきた)王さまはうれしくなりました。
「あら、なんの鳥かしら!ナイチンゲール?ホオジロ?クロウタドリ・・・?いいえ、わたしたちの娘が庭で歌っているんだわ」お妃は開け放たれた窓のそばに腰かけたまま、王さまに言いました。
 ところが、真夜中のこと、お妃はふしぎな音で目が覚めました。王女はくりかえしため息をつき、寝返りを打つたびにシーツがかさかさと音を立てました。ときどき、かえったばかりのひなのような声すらだしました。
(そっとしておきましょう。病気で寝ていたときの夢でも見ているんだわ。明日になればまた元気に歌って遊んでるわ)お妃は気持ちを落ち着けました。
 しかし、つぎの日の夜もおなじことが起こりました。お妃は娘のベッドの傍に行くと、そっとやさしくなでながら目を丸くしました。王女の夜着のうえからなでていると、とつぜん王女の背中にうずらの卵のような丸いものに手が触れたのです。息を吹きかけると、小刻みに揺れました。よく見てみると、赤味を帯びていました。それに触ると、王女は重たそうに息をつきました。お妃は王さまを起こしました。

文/訳 末延弘子 カーリナ・ヘラキサ著『翼がはえた王女』(1999)より


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