【抜粋訳: p.70】
クマとアリ
森をあるいていたクマは、アリにばったり会いました。大きな松の木の下で、小さな生きものの働きぶりを気の毒そうにながめて、こう言いました。
「きみは、ほんとに小さくてどうしようもないなあ。それにくらべて、ぼくはなんて大きくて力もちなんだろう!」
クマがいくら自慢ばなしをしても、アリはなんとも思いません。それどころか、すいっとクマを見あげると、さらりと言いました。
「そりゃ、あなたはわたしよりもずっと大きいし、力もあるかもしれない。でも、わたしほどじゃないですよ!」
こう言いきられたクマは、笑いがとまらなくなるほど、おかしくてたまりません。クマが落ち着くまで、アリは行儀よく待っていました。
「それでは、自分の体と同じくらい大きな石をあごだけで松の梢まで運べるか、力くらべをしましょうよ」
「ばかばかしい!」と、クマは一声あげましたが、その話に乗ることにしました。
アリは地面から自分と同じ大きさの石をあごにはさむと、松の木のてっぺんまで運びました。そして、「着きましたよ」とさけぶと同時に石を下に落としました。クマも自分の体くらいの石をあごにはさもうとしましたが、石はびくともしません。木のてっぺんまで石を持っていくなんて、とうてい無理な話なのです。どうにもしようがないクマは、小さなアリに自分の負けをみとめるしかありませんでした。負けてしまった腹いせにアリをがっと手につかんだクマは、そのまま食べてしまいました。この日から、クマはアリを食べるようになりました。
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