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Unikon satuja    原書名:  Unikon satuja
 (ねむりの精のウニッコのお話)
 作者名:  Marjattta Kurenniemi, 1918-2004
 マルヤッタ・クレンニエミ
 出版社 / 年:  WSOY / 2007
 ページ数:  80
 ISBN:  9510307637
 分類:  絵本
 備考:  

【要約】

今夜も四人の子どもたちは眠りの精を待っています。車のおもちゃに夢中の兄のユハニ、お気にいりの人形リーサと遊ぶことが大好きなリーッタ、ママのお古のバッグとお菓子に目がない妹のテュッティ、そして、よちよち歩きのやんちゃな弟ピックベリ。

コンコンと窓を叩いて現れたのは、きらきら輝く透明のドレスを着た小さな女の子、眠りの精のウニッコでした。ウニッコが架けた光るはしごを伝って、四人は地球を離れ、青い宇宙を渡り、月にたどり着きます。ウニッコが案内したその場所は、よい夢の国でした。

月の砂は砂糖で、森の枝はチョコレート。マカロニの茂みに、シロップ沼。ミルク湖の水はココア川へ流れ、山はアイスクリームをかむっています。おとなの食べ物はひとつもなくて、いくら食べてもなくなりません。

よい夢の国では、すべてが一つの生命をもち始めます。人形のリーサも、カシオペア舟の舵をとるアンドロメダも、文字を教えるオンドリ先生も、野菜畑のニンジンの種も、タマネギシスターズも、みんながおなじ言葉をしゃべるのです。

そこには、おもちゃの国があります。リーサの生まれ故郷です。おもちゃの国には、捨てられたり壊れたりして傷を負ったおもちゃたちがやって来ます。そこで傷を治し、幸せに余生を送ります。サンタクロースは、おもちゃの国の常連さんで、毎年のようにクリスマスプレゼントを選びにやって来ます。

さて、長い冬に「ごくろうさま」の気持ちを込めて、年に一度、春の大掃除が行われます。水色やピンクの掃除服をまとい、ほおかむりをしたエプロン姿の天使たちが叩きをもって地球をきれいにします。冬の間にすっかり汚くなった雪の絨毯は、空の洗濯機にかけて、さらに太陽の石鹸で念入りに手洗いします。風ぼうきで塵と埃を払い、雲の雑巾がけで空の窓をぴかぴかに磨きあげ、緑の草の絨毯を敷いて、大天使が南の扉を開けます。ウニッコも四人の子どもたちも、それぞれの掃除道具で手伝いました。ユハニとリーッタとテュッティは、それまで熱を出して寝こんでいたのに、春の大掃除のあとはすっかり元気になりました。

よい夢の国には、きらきらした「星の花」のような心を持っていれば、どこにいても、どんなときでも、辿り着けます。ところが、「ごめんなさい」を忘れたときは、わるい夢の国に連れて行かれます。一日中ご機嫌ななめのまま謝らずに眠ってしまったら、たいへんです。わるい夢の国では、食べるものはどれもしょっぱくて、花は悲しげにうつむき、そこに訪れる蝶も鳥もいないのですから。

「いつも心に星の花を。それがいちばん大切なの。ひとりひとりの宝ものよ」というウニッコの言葉、誰にでもきらきらした子どもの瞳があって、永遠に安全な場所があるということ、それらが綴られたクレンニエミの童話集は、58年ぶりに新たな装丁で刊行されました。

【抜粋訳: pp.58-59】

「どこに行こうかしらね?」ウニッコが言いました。
「おもちゃの国がいいわ」リーッタが言いました。
「アイスクリームの山に行こうよ」ユハニが言いました。
 妹のテュッティは「いこう、いこう!」をなんどもくり返しました。テュッティにとっては、どこかに行くことができれば、どこでもいいのです。
 ウニッコはしばらく考えこんで、ふいに指をぱちんと鳴らして、こう言いました。
「きめた!」
「すごく遠くに行くの?」ユハニはうきうきしています。
「ちっとも。きょうはすごく近いところにしましょう。ここの庭よ」
「庭なんて、いつもいるところだよ。庭のことなら、ぜんぶ知ってる」ユハニはがっかりしました。
「ほんとにそうかしら。じぶんの庭だって言うけど、もっとびっくりするような新しいことをみんなに見せてあげるわ」
 みんなは、そろりそろりと階段を下りて、玄関のドアをそっと開けました。草はひんやりと湿って、白んだ夏の夜に照らされています。
「ちょっとした魔法をかけて、今からみんなを小さくします。ホホイノホイ」ウニッコは呪文をとなえながら、胸から取りだした赤いヒナゲシで、四人の頭にポンポンと触れました。
 するとどうでしょう。みるみるうちにふしぎな世界が広がりました。子どもたちは、これまでに見たことのないような、うっそうとしたジャングルのなかに立っていたのです。
「いったいここはどこ?」リーッタが目を丸くして聞きました。
 ウニッコはくすっと笑って言いました。
「ほらね。じぶんの庭のこと、やっぱりまだわかってないわ」
「ぼくらの庭にはこんなジャングルはないよ」ユハニが言いました。
「夏にサマーコテージに来てから、みんなはここの庭を何百回もかけ回ったのよね。でも、わたしたちを見て。とっても小さくなったのよ。小指くらいしかないわ。だから、すべてがとっても大きくて、まるでちがって見えるの。わたしたちのまわりのジャングルはたんなる芝生よ。それじゃ、冒険の旅に出発」

文/訳 末延弘子 マルヤッタ・クレンニエミ著『ねむりの精のウニッコのお話』より


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