KIRJOJEN PUUTARHA
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ロシア大公国時代の文学

長い間スウェーデンの支配を受けていたフィンランドは、1809年から1917年まで今度は東の隣国であるロシア大公国の自治領となります。このロシア大公国時代と呼ばれる時代に、独自の文学機関であるフィンランド文学協会(Suomalaisen Kirjallisuuden Seura)が1831年に設立されたり、三人の偉人と称される人物が登場したりと、フィンランドの文芸文化は飛躍的に発展を遂げます。この時代についていくつかの項目に分けて記述していますので、お好きな項目を右のメニューより選択してください。

なお、人名や書籍は読みやすいように日本語に訳して記載しています。

原語名は下記の索引を参照してください。

■ 索引
■ 参考文献一覧


歴史を求めて‐トペリウス

Zachris Topelius レンロート、ルーネベリ、そしてスネルマンと同じく土曜会で活躍した人物にトペリウス (1818-98)がいます。トペリウスはフィンランドの歴史に着目し、1843年に北 部ポホヤンマー地方で行った演説「フィンランド国民に歴史はあるのか」は有名です。この演説で、フィンランドが自国の歴史を築き始めたのは1809年以降であり、それ以前のフィンランドには歴史も国家の形成もないと述べており、スウェーデン側から見たフィンランドの歴史ではなく、フィンランド人の立場から見た歴史の必要性を訴えました。

このように、歴史に着目したトペリウスは、フィンランドの歴史的な資料をもとにした連載小説(歴史小説『ラウタキュラの老男爵』や『フィンランドの公爵夫人、1741-43年にかけて起こったフィンランドの戦争における歴史的描写』(1850)など)をヘルシンフォルス・ティドニンガル新聞に投稿し続けます。後者の作品は、紳士帽党戦争時におけるスウェーデン軍について書かれていますが、フィンランド人女性エヴァを介して戦争の傷を癒す女性の愛を物語っています。また、フィンランド人の立場(ポホヨラ地方の農民ラルソン家系の生活)から、スウェーデンの歴史(1631年のブレイテンフェルドの戦い)を語った代表作『軍医物語』(連載1851-66、出版1853-67)も連載小説として登場します。『軍医物語』には、トペリウスに特徴的なキリスト教的な観念が表れています。王に対するフィンランド人の忠誠心を描き、また、愛と女性のテーマについてキリスト教信者であるレギナという女性の逸話を介して説いています。

このようなフィンランド人の立場から描かれた歴史小説によって、トペリウスは国民的歴史学者として評価され、大学側の要請で歴史学教授や学長などを歴任しています。この大学教授時代に歴史と地学について講じた簡略書『我が祖国の書』(1875)では、フィンランド人は信心深い国民であり、神によってフィンランドの国民が選択された、といったトペリウス特有の観念が表れています。

〔・・・〕神の啓示を授かった時点から神の寵愛する存在となる。それはつまり神への深い忠誠心と畏敬の念を備えた国民であるからだ〔・・・〕

『我が祖国の書』より

つまり、フィンランドが神によって選ばれた国であり、フィンランドの国民はヨーロッパの学識を北の大地に根づかせるためにある、といったキリスト教的な観念と啓蒙的な観念の融合をトペリウスは語っています。この「選ばれた国民」という考え方は、トペリウスの歴史哲学の中心的要素を成しています。

トペリウスは、歴史小説以外にも、紀行文、劇作、児童文学など多面的に活躍しています。とくに児童文学の分野では「童話のおじさん」と称されていますが、トペリウス児童文学への着目は、先に述べたキリスト教的で啓蒙的な考えに起因しています。

ああ 私たちは 小さな子どもにすぎません
道端に咲いている 花にすぎません
あなたを 祈ることしかできません
それ以外に なにもできません
ああ 主よ 弱者の勇気よ、
私たちに 力を 励みを 
光を 慈悲を やんごとなきお導きを!
私たちのスオミに あなたのご加護を!

「祖国のための子供の祈り」より

このように、トペリウスはフィンランド性を歴史小説に求め、また国民の啓蒙といった観点から児童文学に注目しながら、それぞれの分野でフィンランド文化構築の一役を担うこととなりました。


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