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 tunnus 『月までサイクリング』(Maukka ja Väykkä, 文研出版)

   
   


Timo Parvela

【月までサイクリング】

ティモ・パルヴェラ 著『Maukka ja Väykkä』(Tammi, 2009)の邦訳版『月までサイクリング』(訳 末延弘子, 絵 矢島真澄)が文研出版より刊行されました。

【作家情報】

ティモ・パルヴェラ(Timo Parvela,1964-)は、小学校教師を経て作家となりました。少年少女向けの児童書や絵本を中心に活躍しています。コミカルで温かい登場人物を得意とし、彼らが繰り広げる日常あるいは非日常の冒険を、ときにユーモア溢れる軽妙な会話で、ときに深く精緻な心理描写で丹念に描き出す。小学2年生の女の子エッラが主人公の「エッラとゆかいな仲間たち」シリーズ(1995-)はパルヴェラの代表作となっています。フィンランドの民族的叙事詩『カレヴァラ』に題材を求めた冒険ファンタジー「秘宝伝説」シリーズ第一弾『炎剣(Tuliterä)』(2008)でトペリウス賞を、「シーソーは一人ではこげない」とことに気づいた少年の心の成長を描いた『シーソー(Keinulauta)』(2006)でフィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。猫と犬のハートフルな友情物語「マウとバウ」シリーズ(2009-)は他者への思いやりを温かく深く描いています。

【本作品のあらすじ】

空と森をわかつ丘の上に立つ空色の家に、猫のマウと犬のバウは同居しています。夢見る気まぐれロマンチストで理論家のマウと、毎日の畑仕事に精をだす忠実なリアリストのバウは、起きる時間も、好きなものも、考え方も違います。
 トマト品評会に出品するためにバウが丹精こめて育てたトマトを、マウが自分の一万ピースパズル完成祝いにトマトソースにしてしまったり、バウの釣りの仕方に横から口だしするマウにバウはうんざりしたり、ゲーム好きのマウが蹴ったサッカーボールにバウの自慢の野菜が台無しになったりと、心配に事欠きません。
 思いのすれ違いはありますが、おたがいのことを大切に思う気持ちは同じです。丘のふもとの池に映る月の橋をわたって、月までサイクリングしたいというマウのために、バウは畑の収穫物を市場で売って自転車を買ってあげます。一方、マウはクリスマスに自分の宝物の双眼鏡をバウにプレゼントします。いつもきまったことをきちんとこなすことにがんばりすぎて、バウが疲れていると、「だれもなにも期待してないよ」とマウは励まし、完璧であろうとするばかりにマウが臆病になっていると、「完璧っていうのは自分らしくあることだよ」とバウが優しく寄り添います。
 あるとき、冬が苦手なマウは渡り鳥といっしょに南に行くと言って出て行きました。丘の上の空色の家に一人残されたバウは、言葉にできない寂しさをおぼえます。数日後にはマウは戻ってきましたが、バウはかけがえのないものの喪失感を忘れることができませんでした。そして、マウも、移ろいゆく時間のなかで、すべてはいつか終わってしまう不安を抱き、大切な友だちの存在を思います。


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