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刊行50周年を迎えた『無名戦士』

Väinnö Linna 1940年以降、フィンランドでは戦争小説が数多く世に出ましたが、ヴァイノ・リンナ(Väinnö Linna, 1920-1992)の『無名戦士』(Tuntematon sotilas, 1954)は不朽の名作でしょう。発行部数だけみても、初版年には17万部を超えるベストセラーとなりました。

リンナ自身、1943年まで機関銃隊員として戦線に赴き、その体験を『目標(Päämäärä)』(1947)や同作品に反映させました。『無名戦士』はベストセラーとなったものの、一兵卒の視線から描かれたありのままの戦士の姿、彼らが発する冒涜的な言葉、いわゆるルーネベリ的な国民とはちがう戦士たちに、批判の声も少なくありませんでした。当初は『戦争小説』という作品名で刊行するつもりでしたが、タイトル変更を余儀なくされ、また、内容にも手が加えられました。オリジナル版は、2000年に『戦争小説』として刊行されています。

敵国ソ連との間にふたたび勃発した継続戦争(1941-44)。前線で戦う兵士たちは、戦争によって、なにを思い、なにを見つめ、なにを実際に体験したのでしょうか。リンナは戦争描写よりも詳らかな人物描写に重点を置き、前線兵士たち(ヒエタネン、コスケラ、ラハティネン、ロッカ、ヴァンハラなど)の視点から話を展開しました。ひとりひとりに個性をもたせ、ダイアローグを多用しながら、リンナは戦争という常軌を逸脱した状況に置かれた人間たちの心理を如実に表し、また、組織や地位にユーモアをもって抗いました。

傑作『無名戦士』は、本国フィンランドでは知らない人がいないと言っても過言ではないでしょう。2004年12月19日に刊行50周年を迎え、現在までに60万部を発行したベストセラーを祈念して、原出版社がホームページを開設しました。また、『無名戦士』は、1955年(エドヴィン・ライネ, 1905-0989)と1989年(ラウニ・モルベリ, 1929-)に二度にわたって映画化されたことも、作品の絶大な人気を語っています。1955年版を手がけたライネは、リンナの三部作『ここ北極星のもとで』(1959-1962, 映画化1968)など数々のフィンランド古典文学作品も映画化しています。『無名戦士』は、フィンランド史上最多の観客動員数を記録しました。


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