KIRJOJEN PUUTARHA
フィンランド文学情報サイト

有機的な時間のために-末延弘子

フィンランドの児童文学は、ファーストブックから絵本や児童書、そしてヤングアダルトまで、どのジャンルにおいても活気があります。とくに、若い世代の絵本作家の活躍で、今までにない漫画的なコマ割りの展開やCGを用いた挿絵が登場し、表現が多様化しました。情報技術に触れることが多くなった現代において、多様化した美術表現は読者層と共有空間を広げつつあります。しかし、この活気は、テレビ画面から一方的に流れてくる情報の華やかさではなく、読み手が自発的に関わってこそ生まれるものです。

 子ども向けの本だからといって、フィンランドの児童書のテーマはけっしてやさしくなく、文章量も少なくありません。それは、子どもの読む力を軽んじていない証だと、昨年、東京国際ブックフェアに初参加したフィンランド文学情報センター(FILI)のハンネレ・イュルッカ氏は指摘しています。

 経験や知覚に訴える事象がたくさんあれば、先が読めなくても子どもはそれらを繋げて全体へ組み立てます。それをおそらく、想像力あるいは直観というのでしょう。しかし、小さな子どもにはまだ読めない文字もあります。せっかく動きだした子どもの想像力が、そこにつまずいて収束しないように、ここで親の読み聞かせが大切になってくるのだと思います。フィンランドでは、読み聞かせの対象本は絵本だけとはかぎりません。重視しているのは、親子の共有時間であり、子どもの想像力を育む時間であり、親子の愛をわかち合う時間だということです。その過程がリアリティを生み、有機的な時間をつくります。

 これまでに、シニッカ・ノポラとティーナ・ノポラ姉妹の「ヘイナとトッス」シリーズや「リスト・ラッパーヤ」シリーズ、あるいは、現代童話作家のハンネレ・フオヴィや幻想文学を得意とするレーナ・クルーンの児童書を、刊行本やフィンランド文学情報サイトで日本にご紹介することができました。これらのフィンランドの児童書は、そういった有機的な時間と場所を作ってくれるものだと思っています。本は、読まれてはじめて本となり、読み手との関係においてはじめて生きてきます。そんなダイナミックな感動をもたらしてくれるフィンランドの良書を、翻訳を通して、これからもお届けできればうれしく思います。

 昨年に引き続き、フィンランド文学情報センター(FILI)は東京ビッグサイトにて開催される第15回東京国際ブックフェア(2008年7月10日-13日)に参加します。FILIは、文学イベントや交流プロジェクトを通してフィンランド文学を国内外に発信するフィンランド政府の学術文化機関です。今年も、FILIは児童書フェアにブースを設け、新たな繋がりと交流の場となるよう願っています。

文 末延弘子 / フィンランド文化センターの季刊誌「Koivu」(Vol.6 2008)に寄稿した記事より


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