本題に入るまえに、二人の姪っ子とともに私が宮崎駿監督の大ファンであり、トトロの国に初めて来ることができたことが、子どものように嬉しくてなりません。日本とフィンランドはあらゆる仕方でお互いに遠く離れていますが、深く普遍的な言葉を有する子どもの本や文化を考えますと、隔たりはそれほど感じません。日本でのムーミン人気も、フィンランドでの宮崎監督のアニメ作品のヒットも、おそらくそうした理由からでしょう。
フィンランドの今の子どもの本をこうやってご紹介できるということも、たいへん光栄に思っています。とにかく良い本ばかりです!フィンランドでは、年間およそ1,500点もの子どもの本が発行され、発行点数は年々増えています。今年に入って読んだ本の中で、自分でも驚きましたが、印象に強く残ったのは子どもの本でした。子どもの本を読みながら、泣いたり笑ったり、ふうんと思ったりうわっと思ったり。ウィットと情緒、弾ける想像力とありえないユーモア。ここでは、私たちのおすすめ本を簡単にご紹介したいと思います。まったくもって主観的なセレクトではありますが、フィンランドではどんな本が作られているのか、なんとなくでも感じていただけたらと思います。
フィンランド児童文学機構のカイス・ラッテュア所長によると、2000年以降、フィンランドでは児童向けノンフィクション本がぞくぞくと刊行され、今や1000点を超えました。内容もますます多様化し、親子が一緒に作る機会を与える本などもあります。ピヒラ・メスカネン(Pihla Meskanen)の『Pieni majakirja(ちっちゃな秘密基地の本)』は、砂漠の遊牧民ベドゥインのテントから木の小屋の作り方まで載っています。マイヤ・バリック(Maija Baric)の『Nukketeatteria(人形芝居)』では、影絵芝居に使う12種類の指人形の作り方が載っています。お母さんのための子ども服の本『Juju - Erilainen lastenvaatekirja(ちちんぷいぷい 子ども服いろいろ)』ではユニークな子ども服の作り方が紹介され、著者のマリ・サヴィオ(Mari Savio)とカティ・ラピア(Kati Rapia)は、独自の発想、古着の利用、子どもの個性に目を向けるように促しています。
伝説や神話を取り上げている子ども向けの本もあります。楽しいお話と絵でフィンランドの伝説の生き物を紹介したメルヴィ・コスキ(Mervi Koski)の『Suomalaisia haltijoita ja taruolentoja(フィンランドの精霊たち)』や、マルユット・ヒェルト(Marjut Hjelt)とヤーナ・アールト(Jaana Aalto)の『Keijukaiset - Totta ja tarinaa toisesta maailmasta(フェアリー もう一つの世界の真実と物語)』などがそうです。伝説はあらたに書き直されてもいます。昨年の冬に映画化されたマルコ・レイノ(Marko Leino)の『Joulutarina(クリスマス物語)』は、フィンランドのクリスマス伝説にあたらしい見解を与えました。物語では、サンタクロースの感動的な人生とクリスマスにプレゼントが配られるようになった秘密が明かされます。ユッカ・イトコネン(Jukka Itkonen)は、『Sorsa norsun räätälinä(カモはぞうの仕立て屋さん)』で、型破りのユーモアと笑いの絶えない再解釈で、古典的なメルヘンをすっかり現代風に変えました。ニキビ顔のお姫さまが運命をつかんだり、おばあちゃんがオオカミを食べたりするくだりを、楽しそうに読む小学生の男の子がなんだか思い浮かびます。
行動的なお姫さまが登場する子どもの本はたくさんあります。たとえば、ティモ・パルヴェラ(Timo Parvela)の「エッラとゆかいな仲間たち」シリーズ、パウラ・ノロネン(Paula Noronen)の「スーパーモルモット」シリーズ、ユバ・トゥオモラの『ちっちゃなミネルヴァとゆかいな仲間たち ドクター・ボギーに花束を』では、長くつ下のピッピのような主人公に出会えます。児童書「エッラ」シリーズの主人公エッラは冒険好きな小学二年生で、フィンランドの子どもたちが大好きな本です。12巻目となる新刊『Ella ja seitsemän tärppää(エッラと七人の仲間たち)』では、エッラは友だちと大都会を冒険します。ファッションショーの会場に立ち寄ったり、迷子になったり、見つかったり、変装したり、別行動したり、新しい童謡を思いついたり、困ったり、助けられたり、先生のスパゲッティーを食べたり、テレビ局を占拠したり。ノロネンの『Supermarsu lentää Intiaan(スーパーモルモット、インドへ飛ぶ)』は、スーパーモルモットのパワーを手に入れた11歳のエミリアの物語です。スーパーモルモットパワーで、いじめられている同級生のシモにとびきりおかしいジョークを教えます。シモは、学校のジョークコンテストで優勝し、いじわるアンテロをぎゃふんと言わせます。トゥオモラの絵本の主人公ミネルヴァは段ボール箱に乗って、世界を救うために旅立ちます。
メルヴィ・リンドマン(Mervi Lindman)の絵本『Urhea pikku Memmuli(ちびのメンムリのゆうき)』は怖がりの少女メンムリのお話です。トイレの水が流れる音にも、フルーツスープにも、お風呂の泡にもちびのメンムリはびくびくします。お話では、恐いものと向きあって克服するまでのメンムリが、温かいユーモアで描かれています。勇気とは、怖がらないことではなく、恐いことを受け入れることなのです。
近年、フィンランドではこのように難しいテーマを取り上げた子どもの絵本が多くなりました。悲しみや死をテーマにしたシリーズに、リーッタ・ヤロネン(Riitta Jalonen)とクリスティーナ・ロウヒ(Kristiina Louhi)の『Tyttä ja naakkapuu(とまり木と少女)』と『Minä, äiti ja tunturihärkki(わたし、お母さん、ミミナグサ)』があります。また、パイヴィ・フランツォン(Päivi Franzon)とサリ・アイロラ(Sari Airola)『Surusaappaat(かなしみの長靴)』も同じようなテーマを扱っています。おばあちゃんの死に向き合い、受け入れる少年エーミのお話で、アイロラの情緒的な絵が印象的です。
マリア・ヴオリオ(Maria Vuorio)の児童書『Orava ja pääskynen(リスとツバメ)』は、寓意的な手法で異文化や違いを受け入れるお話です。秋、リスが硬直したツバメを見つけます。リスは、春が来るまでツバメを自分の家に置いて暖めます。二人の出会いと別れが細やかに描かれたハートフルな物語です。もの悲しい雰囲気ながらも、ユーモアがあって温かくてじんとくるハッピーエンドに終わる物語です。この児童書は、2007年度のフィンランディア・ジュニア賞の候補に選ばれました。
スナ・ヴオリ(Suna Vuori)とカトリ・キルッコペルト(Katri Kirkkopelto)の絵本『Hirveää, parkaisi Hirviä(ちびのモンスターのこわい夢)』では、ちびのモンスターが、(当然ながら)人間がモンスターの存在を信じない悪夢を見て、自分の存在について考えます。生と死と存在について、おとうさんモンスターとおかあさんモンスターと一緒に考え、人間がモンスターをどう思っていようとも、愛を信じることが大切だと教えられます。
最後に、挿絵が印象的な絵本をご紹介します。
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レーナ・ラウラヤイネン(Leena Laulajainen)『Kultamarja ja metsän salaisuudet(クルタマルヤと森のひみつ)』
- サリ・アイロラ『Mia Tiu ja sata sanaa(ひゃくまでかぞえるよ)』 と『Muuttolintulapsi(わたり鳥になったアンナ)』
- ティーナ・ノポラ(Tiina Nopola)&メルヴィ・リンドマン「シーリ」シリーズ
- カーリナ・ヘラキサ(Kaarina Helakisa)&ヘリ・ヒエタ(Heli Hieta)『Prinsessan siivet(おひめさまの翼)』
- マリン・キヴェラ(Malin Kivelä)&リンダ・ボンデスタム(Linda Bondestam)『Den färträfflige herr Glad(すてきなハッピーおじさん)』
かいつまんだお話でしたが、今回のブックフェアでは、60冊のフィンランドの本をご用意しています。きっと、お好きな一冊が見つかると思っています。ぜひ、私たちのブースにお越しください。お待ちしています。
訳 末延弘子
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