KIRJOJEN PUUTARHA
フィンランド文学情報サイト

ニュース

SUOMI誌掲載 - 現代フィンランド文学事情

「フィンランド総合情報誌 SUOMI」 の23号が発行されました。その中に本サイトのスタッフが寄稿した「フィンランドの現代文学事情」が掲載されました。発行元より許可をいただきましたので、その記事を下記します。

現代フィンランド文学事情

Suomi No.23 2004年は、フィンランド文学の礎を築いたヨハン=ルドヴィグ・ルーネベリの生誕200年という節目の年であり、様々な催事が行われました。ルーネベリは、フィンランドの民衆の姿を観念的に描写し、国民詩人と称された偉人の一人です。

文学的にルーネベリのような観念的な現実主義は、フィンランド特有の現象ではありません。しかし、長年他国の支配下にあったフィンランドにとって、これまで持ちえなかった自らを映し出す鏡を得たことは重要なことでした。

彼の足跡は、将来を見据えたフィンランド人の姿を描いたアレクシス・キヴィや、辛抱強い国民性を「杜松の国民」(katajainen kansa)と表現したユハニ・アホなどの後世の作家に受け継がれ、各時代のフィンランドを映し出す鏡の役割を担ってきました。

現代の作家の歩みに視線を移すと、昨年、北欧閣僚評議会文学賞を受賞したカリ・ホタカイネンの『マイホーム』(2002, 邦訳2004)にも、現代のフィンランドがスナップ写真のように映されています。作品には、主夫の立場、家族関係、隣人関係、そしてこれまで語られることのなかった不動産業界が描かれ、資料的価値の高い作品として注目されました。

直接的に現代社会を描くのではなく、歴史や偉人を現代の視点で捉えようとする作家もいます。とりわけ、昨年フィンランディア文学賞を受賞したヘレナ・シネルヴォは『詩人の家で』(2004)の中で、50年代のフィンランドの女流詩人エーヴァ=リーサ・マンネルの生涯を現代人の視点で描き、新しい解釈を打ち出しました。

更に、独立国、EU加盟とフィンランドの歴史が時を刻む中で、フィンランドという枠組みを離れて表現を求める作家も数多く存在します。彼らは、フィンランドの社会のありのままを描くのではなく、個人として「自己の内面」に問いかけることで社会問題に対する解決策を模索するのです。

この流れを代表する現代作家にイュルキ・ヴァイノネン、レーナ・クルーン、そしてハッリ・ノルデルがいます。いずれの作品も現実から距離をおき、非日常的な世界で物語が展開します。しかし、幻想の域にとどまることなく、現実の世界との間を巧みに関係づける点で共通しています。このように、特定の国の域を超えて著され、また受容されるような作品も増えてきました。もちろん、これはここ数年の話ではなく、またフィンランドに限ったことでもありません。

その良い例として、昨年の暮れにEU議長国オランダが東京で主催した文学祭「西と東の出会い」が挙げられます。この催しの目的は、各国を代表する現代作家が自らの作品を原語で朗読し、EUの中にあるフィンランドを含めた複数の息吹を伝えることでした。

確かにその趣旨は感じられました。しかしながら、現代作品の内容自体は黙読する限りにおいては、どの国を代表するものかを識別するのは困難であり、例えば、フィンランドを代表して参加したレーナ・クルーンの出展作品『タイナロン』(1985、邦訳2002)も、フィンランド性を強調したものではなく、現実の諸問題を非現実な世界から普遍的に問題提起するものでした。そこにはもはや国境は見受けられません。

昨今のフィンランドの児童文学も例外ではなく、トミ・コンティオやリトヴァ・トイヴォラに代表されるように、既知の概念を再検証するかのように、現実を間接的に別世界から捉えた作品が多く著され、高い評価を受けています。

ここ数年の間に、レーナ・クルーン著『ウンブラ/ タイナロン』(2002)、『木々は八月に何をするのか』(2003)、そしてカリ・ホタカイネン著『マイホーム』(2004)(いずれも新評論刊、末延弘子訳)など相次いでフィンランドの現代の作品が邦訳さています。また、今年度もクルーンの『ペレート・ムンドゥス』などが刊行される予定です。いずれの作品もフィンランドの現代文学の特徴を良く表しています。この機会にフィンランドの現代作家の作品を手にとって、その声を感じ取ってみてはいかがでしょうか?

文 末延 淳 「フィンランドの現代文学事情」 所収 「フィンランド総合情報誌 SUOMI Number 23」(2005)より

SUOMI Magazine: Suomi is published jointly by the Embassy of Finland, Finpro, the Finnish Institute in Japan and FCCJ. (URL:http://www.suomi.or.jp)



ニュース&特集記事の目次へ   ▲このページのトップへもどる